100mを5秒で走る男。

~かくの如く人生は、たった一つの小さな歯車が外れたばかりにとんでもない事件が起こる事がある。戦争も大事件も必ずしも高尚な動機や思想的対立から起こるのではなくほんのちょっとした間違いから十分起こりうるのだと。

そして大思想や大哲学は概して大した事件も引き起こさずにカビが生えたまま死んでしまうのだと。

昨今読んだ本に書いてあった気がするのだが、これはまさしくその通りなのだ。

 


誠に書く事もございませんので

 


私が中学二年生(人生の転換期)のある何気無い一日の記憶の話をしよう。

 


私が思うに中学二年生とは、世界で最も巨大なポテンシャルを持った集団でありながらそのポテンシャルをやっとのこと生えて来たち◯毛とごちゃ混ぜにして銀行ATMの現金取り出口しに突っ込んで詰まらせてしまうような連中である。(これは揶揄であるが、実際にそう言った事をしる奴もいたかもしれない)

当時の彼らは、

受験勉強が大変であると嘆きエロい事を考えていた。

生徒会に入り浸り学校改革をしようなどと偉そうな事を抜かしエロい事を考えていた。

部活で全国大会出場を目指しエロい事を考えていた。

起立・気をつけ・エロい事を考えていた。

 


そして当時彼らの中で大流行したのがいわゆる“恋愛”“お付き合い”なるものだ。

これに関しては男子である私の意見を言わせてもらうと、

 


85%女子の陰謀によるもの

 


であると考えている。間違いない。全ての巨悪の根源である。まっ違いない。

私の性別は男につき、当時の女子が何を考えていたか当分検討がつくはずはないが、当時のエロくそガキ達のそう言ったマインドに女子が限りなく搾取した形となっていたのは明白なのだ。当時賢いタイプのくそガキだった私には手に取るようにわかる。

と言っても彼らが青春などと豪語するそれは、廊下ですれ違うたび気まずさを感じ、それでも努力により二人きりで家まで歩いて帰り、余程世間離れしたガキ以外はそれ以上の進展に期待などなかったのであろうけども。いくら妄想を洗練させたところで、それを実行できるほどに彼らは完全な存在ではなかったのだ。

おママごとRev,2といったところか。(かわいらしいものであったという表現なのでこれを読んでも気を害さないでほしい)

 


中学二年生の性質についてはどうでもいいので一旦ここまででいいや。

 


話を戻し、私の記憶の話を。

理不尽を学んだのである。恐怖を知るのである。

のちに私の大親友となるAくん。彼もまた、賢いタイプのくそガキだった事に違いないが、私との大きな違いといえば、筋力量が私より多い事と脳から筋肉へと伝達される信号の通信速度である。いかんせん成長期につき生物としての個体差が生まれてしまうのである。

 


いたずら好きのAくんは当時、私の靴をいわゆる青春おママごとパートナーの靴箱に入れるといういたずらを思い付いたらしく、数回にわたり私の靴を隠し、鬼の首を取って来てそれを使ってセパタクローでもする気なのか??とでもいわんテンションで奇声さながらのわらい声をあげるのであった。

 


いわゆる“電柱に激突する蝉”のような男である。

 


私も人間である。そうなると必然的に、Aくんの靴をAくんの当時のパートナーの靴箱に隠す事になるわけだ。やり返してやったのだよ。

 


戦争だって些細な、小さな歯車が外れたばかりに起きてしまうのさ。

 


朝学校に着き教室の扉を開けると、すでに席についていたAくんはでかい音を立て(蝉はでかい音を立てがち)席から立ち上がると、あれは当時ウサインボルトが100mを9、何秒か。世界記録を出したなど世間が騒ぎ立てていた頃だったか。

私が目の当たりにしたそれは、ウサインどころの話でははく、道路を横断するイタチどころの話ではなく、

100mを5秒くらいで走りきるほどの速度で私に近づいてくるAくんであった。仮にもここは教室なのだぞ。

 

 

 

恐怖を感じた。そこからのことはよく覚えていない。

 

 

 

Aくんは私の学ランを鷲掴みにすると、黒板の下(チョークの粉が散らばっている。いわゆる教室で一番汚い床)に投げ飛ばした。

 

 

 

恐怖を感じた。そこからのことはよく覚えていない。

 

 

 

Aくんは何やら倒れている私の手を掴んで小指の爪をどうこうしたかったらしい。

 

 

 

恐怖を感じた。そこからのことはよく覚えていない。

 

 

 

そうだ。  

小指の爪の根元を潰されたのだ。

 

 

 

究極的に地味であること。地味に鈍い痛みを感じること。

そう、この爪の根本の鈍い痛みと内出血の青紫色こそがあの、青春という不確かで不安定な存在の正体だったのだ。

 


確かその時Aくんは『あれをやったのは俺じゃね!!!』と叫んでいたっけ。

わからなかった。A君でなく違う学生が実行犯であったとして、なぜ私がA

くんの靴を隠したと確信していたのか??

まあ、それはいい。理解することが必ずしも重要ではない。

後に聞くと、アメトークで手の指の爪の根元を潰すのが一番痛いとある芸人が言っていてその暗殺術を試して見たかったのだとか。

たかが、中二のくそガキの小指の爪が内出血を起こしただけのことである。

 

 

 

理不尽を学んだのである。  

この世の性を理解したのである。

 

 

 

100mを5秒で走る男を私は知っているのだ。

 


寝よう。

アデュ